登山レポート:鍋割山 1272m

静かな歩幅で、山と向き合う一日

登山口に立ったとき、空気が少しだけ冷たく感じた。
街の匂いが薄れていき、足元の土と木の気配が前に出てくる。
鍋割山は派手な主張をしない。けれど歩くほどに、自分の内側の輪郭が、静かに整っていく山だと思う。

序盤はなだらかで、呼吸を確かめながら進める。
沢の音や、木々の間を抜ける風が一定のリズムをつくり、足音は次第に自然と混ざっていく。
登りがきつくなる中盤以降は、身体の声を聞く時間になる。
無理をしない。急がない。ただ一歩ずつ。

山頂が近づくにつれて、視界は少しずつひらいていく。
達成感というより、「よくここまで歩いてきたな」という静かな実感が、あとから追いついてくる。

山頂では、名物の鍋焼きうどんを食べた。
湯気が立ちのぼり、出汁の香りが風に混ざる。
冷えた身体に、熱がゆっくりと染み込んでいく感覚。
それはご褒美というより、この山を歩いた時間を、きちんと身体に刻むための確認のようだった。

鍋割山は、登ることで何かを得る山ではないのかもしれない。
考えすぎていたこと、知らずに背負っていた焦り。
それらを少しずつ手放しながら、下っていく場所だ。

初心者にもやさしく、それでいて、ちゃんと山と向き合う時間をくれる。
また歩きたくなる。
そんな「余白」を残してくれる山だった。

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